ハンドブックが届いた。

以前に書いたハンドブック(Handbook of the Economics of Financeの2巻PartA)が届いたので,ざっと呼んでみた感想を以下にリストアップ。ちなみにPart Bは買ってもいないです。

    • 第1章が証券化: おそらくもっとも重要になる章である第1章,10年前の1巻では1章にコーポレート・ガバナンス,2章にエージェンシー理論となっていました。今回は,直近の金融危機の議論を反映してか,1章がGary GortonとAndrew Metrickによる証券化("Securitization")となっています。なお,Part Bでは,バブルに関する章や,ファンドに関する研究のレビューも含まれています。PEのレビューをMetrickと共同で書いているA. Yasuda先生も共著になってほしかったところ。。。
    • 国際比較の台頭: La Portaらによる6章「法とファイナンス ("Law and Finance after a Decade of Research")」では,彼らが中心として行なってきたの国ごとの法制度とファイナンス行動に関する研究のレビューが,また10章が「途上国におけるファイナンス」("Financing in Developing Countries")となっており,国際比較が主となっています。さらに金融機関論を扱った11章においても,国ごとの統計が掲載されるなど,一冊を通じて,国際比較に重点が置かれている印象です。
    • 私の研究分野近辺: VC,ファミリービジネスにそれぞれ1章ずつ割り振られていました。後者に関しては,近年研究が増えてきているものの,レビュー論文になる程だとは思いませんでした。少し国際比較がされいていますが,それほど深堀りしていません。大半が研究の歴史にウェイトが置かれている印象です。
    • 方法論: 1年以上前からDPになっていたMichael RobertsとToni Whitedによる「コーポレート・ファイナンス実証研究における内生性 ("Endogeneity in Empirical Corporate Finance")」が7章です。1巻では方法論に1つの章を割いていなかったことも鑑みると,特に近年,無い生成の考慮と克服という難問に大きな関心が持たれていると考えてよいでしょう。中身は,操作変数法,Difference-in-Difference,Regression Discontinuity,マッチング,パネルデータを用いた推定,が説明されています。DPよりも中身が濃く,説明が詳細になっているようです。
    • 証券発行: 10年前に発刊された第1巻では,Stewart Myersが4章で伝統的なレビューを行い,Jay Ritterが5章で主にIPOSEOの短期,長期超過収益率の議論をまとめていました。時代を感じますね。第2巻は第2章の「動学的証券デザインと資金調達("Dynamic Security Design and Corporate Financing")」で,より直近の動学的なモデルまで紹介されているようです。
    • 2000年前後に流行った研究への功労賞: Grahamの税金と資本構成の議論(3章),Murphyによる経営者報酬(4章),Baker and Wurglerの行動ファイナンス(5章),La Portaらの法とファイナンス(6章),HellmannとPuriらのVC(8章)などはいずれも,2000年前後に一世を風靡したテーマ&筆者の組み合わせです。研究としての方向性が見えて来て,レビュー論文が書かれるほどの研究の厚みが出てくるには,先駆的な研究が発表されてから10年程度の歳月が必要なんですね。
    • 行動経済学: Baker and Wurglerによる「行動コーポレート・ファイナンス ("Behavioral Corporate Finance: An Updated Survey")」が5章に収録されています。タイトルに`updated'とあるとおり,これはHandbook in Corporate Financeの1章ですね。そういやそちらではRichard Rubackも共著者でしたが,こっちのハンドブックでは著者から落ちてますね。かれらが用いてるモデルも,章立ても以前のものと同じです。なお,行動経済学関連の章は,Part Bにも収録されています。そちらはBrad BarberとTerrance Odeanによるものです。10年前に出版された第1巻では,確かRobert Shillerが,「伝統的ファイナンスと行動ファイナンスは,将来統合される方向にある。数十年後にこのハンドブックの2巻が発行される時には"behavioral"と名のつく章が無くなるだろう」みたいな感じの短文を書いていたように思いますが,残念(今,手元に元論文が無いので,言葉遣いは不正確であり誤りが含まれる可能性があります)。

今回のハンドブックは,Part Bでファンドに関するレビューが複数本入っているので,こちらの方も買うべきかも。あとPDFかKindle版が欲しい。

いずれにせよ,要チェックやー!