スタートアップ企業の資金調達

各国において未公開企業のデータセットが整備されたことも反映してか,近年,エントリー・タイトルのresearch questionに挑んでいる論文が増えてきています。

資本制約にあることは,起業家が事業を行う上で一番の障害になると言われています。そもそも起業家の資本制約は,何によってもたらされるのか,あるいは外生的に取り除くべきなのか。
Andersen and Nielsen (2012)は,デンマークの個人レベルのデータを用いて2種類の起業家が起こした企業の成長を比較しました。
一つは,``期せずして''相続などにより多額の資金を得てそれを持って起業をしたグループ。もう一つは,そのような外生的なイベントがないまま起業をしたグループです。
結果としては前者グループの成長が後者グループと比較して有意に低いことが確認されました。
両グループの違いは,自身で資金調達をする能力があるかどうか,という一点です。このことから,資本市場のfrictionを改善し,今の状態では地震資金調達を行うことができない潜在的は起業家に資金を供給することが,必ずしも成長性の高い企業を生み出しているわけではないことが分かる。

つまり,ベンチャーを興したいってやつに,無理やり補助金を出すのはどうかって話。

Robb and Robinson (2012 RFS)ではKauffman Firm Survayを利用して,設立したての企業は銀行融資への依存度が高いことを確認いました。
未公開企業の資金調達手段としてはベンチャー・キャピタル(VC)の役割に関する実証研究は数多くありますが、VCの出資以前の企業の資金調達手段を大規模に調査した論文は少ないとのこと(米国以外ではわりと見かける気がするが。。。)。
VCとの関連で言えば、VCからの出資を受けた企業であっても銀行融資の依存度が高いことが確認されました。
また、企業間信用についても、銀行融資ほどの規模はないが、大きなシェアを占めているとのことです。

  • 銀行間の競争度が中小企業の生産性に影響を与えているのか?

同様の内容を,より詳細に分析を行ったのはKrishnnan, Nandy, and Puri (2014)です。
同論文では,米国銀行の州際業務規制の撤退を自然実験とした上で,中小企業の外部資金調達が自由になることにより,未公開企業の生産性が高まったかどうかを分析しました。
かつて,米国では商業銀行は州をまたいでの営業を行うことが禁止されていました。90年代にその規制が徐々に緩和されることにより,銀行間の貸出競争が高まりました。
この貸出競争の激化が,企業の生産性の向上,具体的には生産性(TFP)の上昇が見られるのではないか,というのがResearch Questionです。
Krishnnanらが用いたデータセットはU.S. Census Bureau’s Longitudinal Research Database (LRD)です。

Andersen, S., & Nielsen, K. M. (2012). Ability or Finances as Constraints on Entrepreneurship? Evidence from Survival Rates in a Natural Experiment. Review of Financial Studies, 25(12), 3684–3710.
Krishnan, K., Nandy, D.K., Puri, M., 2014. Does Financing Spur Small Business Productivity? Evidence from a Natural Experiment. NBER Work. Pap. Ser.
Robb, A. M., & Robinson, D. T. (2012). The Capital Structure Decisions of New Firms. Review of Financial Studies, 27(1), 153–179.