その外生的ショックは本当に外生的ですか?

今回紹介する論文はKarpoff教授(ワシントン大学)によるJournal of Finance論文(Karpoff and Wittry, 2017)。 近年の研究の多くは疑似実験による方法が主流となっている。具体的には企業からはコントロール不可能な外生的ショックを用いることによって因果関係の推論を行うことに重きを置いている。よく用いられる手法としては法律の制定などを制度変化が他の企業の変数に与える影響を確認することである。ここで重要な前提としては法律の変化というのが企業によって 決定臆することができないという点にある。しかし多くの場合において企業が政府に対して何らかの働きかけには入るロビングを行うことが可能である。あるいは、制度変化自体はそれ以前の経済環境・経営環境から予測可能である。これらを踏まえると買収防衛策の導入という制度変更は外生的とは言えない。 そのことを踏まえ、当論文では米国での買収防衛策の効果を計測した過去の論文を、上の要素を踏まえた上で再検証した。

結果としては概ね先行研究とは異なるものであり、買収防衛策が企業価値に与える影響は確認されなかった。つまり先行研究で外生的だとされていたものは、実は内生的に決定している、あるいは別の制度変化の影響を含んでいただけであった。

同論文の中では、最近トップジャーナルに掲載されていた論文を丁寧に再検証しており、その過程で、データのエラーが複数あったことが指摘されている。データセットは丁寧に作りましょう。

余談ながらKarpoffは、RFSにコーポレート・ガバナンスでよく用いられる指標(E-indexやG-index)は不正確だとする論文を掲載している。いずれもよく利用される一方で、何を図っているのかわからないなどの批判も多かったため、トップジャーナルに批判論文が掲載されたことは心強い。同時に実証分析の方法論について、先行研究で言われていることを真に受けて分析をすることの怖さも教えてくれる。

 

Karpoff, J. M. and Wittry, M. D. (2018), Institutional and Legal Context in Natural Experiments: The Case of State Antitakeover Laws. The Journal of Finance, 73: 657-714.

doi:10.1111/jofi.12600

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jofi.12600